Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme
「どういう心地がするの?」
「何だか、世間のことがすべて、ありえない嘘のような」
「ここが嘘か。世間が嘘か」
「わかりません」
「誰がつけたか、奥の院と外院との、ここの境を、迷悟の橋とは」
「うまくつけましたな」
「迷いも実。悟りも真。わしはそう思う。嘘と観たら、この世はないからな。――いや御主君に一命をさし上げている侍奉公の身には、かりそめにも虚無観があってはなるまい。わしの禅は、ゆえに、活禅だ。娑婆禅だ、地獄禅だ。無常におののき、世を厭う心があって、侍の奉公が成ろうか」
といって、老武士は、
「わしはこっちへ渡る――さあ、元の世間へ急ごうぞ」
足を早めて先に立つ。
年のわりに足が慥かである。襟くびに兜の錣ずれらしい痕もみえる。山上の名所や堂塔の美もすでに一巡し、奥の院の参詣もすまし終ったものとみえ、その足どりはもう真っ直に下山口へかかる。
「よう、出ておるな」
下山口の大門まで来ると、老武士は遠くからつぶやいて、ふと迷惑そうな眉をひそめた。そこには、本山青巌寺の房頭から学寮の若僧たちが二十名以上も、列を左右に割って、待ちうけていた。
老武士の見送りにである。