Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme
十一
「でも……でも……」
お通はいつか、全身で嗚咽していた。とつぜん、懸命な力で、武蔵の手をつかんで叫んだ。
「死んでも、お通は。――死んでも……」
武蔵は、もくねんと、大きく頷いて見せたが、細くて怖ろしく強い彼女の指の力を、一つ一つぎ離すと振り退けるようにして、突っ立った。
「武士の女房は、出陣にめめしゅうするものでない。笑うて送ってくれい。――これ限りかも知れぬ良人の舟出とすれば、なおさらのことぞ」
十一
傍らに人はいた。
けれど、二人のわずかな間の語らいを、邪げる者はいなかった。
「――では」
武蔵は、彼女の背から手を離した。お通はもう泣いていなかった。
いや、強いて、微笑んで見せようとさえしながら、わずかにやっと、涙を怺えとめて、
「……では」
と、同じ言葉で。
武蔵は起つ。
彼女も、蹌りと、起った。――傍らの樹を力に。
「おさらば」
いうと、武蔵は、大股に浜辺の波際へ向って歩みだした。
お通は……喉までつき上げて来た最後のことばを、その背へ、遂にいえなかった。なぜならば、武蔵が背を向けた弾みに、
(もう泣くまい)
と、していた涙が、滂沱となって、武蔵の姿すら見えなくなってしまったからである。