Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme
さいかち坂
一
さいかち坂
一
悲心の闇、悲母の迷い、風流を解すおばばではないが、秋の虫、萩すすき、前にはゆるい大川のながれ。――こうした中に身を置いては、彼女も、もののあわれに誘われぬ人間ではあり得ない。
「いるのか」
「誰じゃ」
「半瓦の部屋のもんだよ。葛飾から野菜物がたくさん届いたから、ばば殿のところへも頒けてやれと親方が仰っしゃるんで、一背負い持って来た」
「いつも、お心深いことのう、弥次兵衛どのによろしゅういって下されよ」
「どこへ置こうか」
「水口の流し元へ置いといて下され。後で仕舞うほどに」
小机の側に灯を掲げて、彼女はこよいも筆を執っている。
千部写経の悲願をたてた、例の父母恩重経の行を積んでいるのであった。
この浜町の原の一軒家をかりうけて、昼間は、病人に灸点をして困らぬながら糊口の生業もし、夜は静かに写経などして、ひとり暮しの気易さに馴れてからは、持病も久しく起らないし、この秋は、体もめっきり若返ったふうである。
「あ。ばば殿」
「なんじゃ」
「夕方、若い男が、訪ねて来なかったかい」
「灸点のお客か」
「うんにゃ、そうでもねえ様子だったぜ、なんだか用ありげに、大工町の部屋へ来て、おばばの引っ越し先を教えてくれといって来たが」