Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme
逃げ水の記
一
――そのうちにお帰りはきまっておるから、また、厩の馬とでも遊んでいるがよい」
「じゃあ、あの馬、借りてもいい?」
「いいとも」
伊織は、厩へ飛んで行った。彼は、良い馬を選んで引っぱり出す。きのうも、おとといも、その馬には乗っていたが、新蔵には黙って乗って行ったのである。――けれど今日は許されたので大威張りであった。
馬に跨がると、伊織は疾風みたいに裏門から駈け出した。きのうもおとといも、彼の行く先はきまっていた。
屋敷町――畑道――丘――田や野や森や、晩秋の風物が見るまに駒のうしろになって行く。――そしてやがて、銀いろに光る武蔵野の薄の海が眼の前に展がってくる。
伊織は駒を立てて、
「あの山の彼方に――」
と、師のすがたを思う。
秩父の連峰が、野の果てに横たわっていた。牢舎の中に囚われている師の身を思うと、伊織の頬は濡れてくる。
涙の頬を、野の風が冷たく撫でる。秋の更けたことは、あたりの草陰に真っ赤な烏瓜だの草紅葉をみても知れる――。やがて、山の彼方は、霜にもなろうに――と考えられたりする。
「そうだ! 会って来よう」
伊織は、思うとすぐ、馬のしりへ鞭を加えた。