Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
と、彼はなお、考えた。
しかし、身につけている物で、値のある物などは何一つもない。彼は遂に、今夜は食べずにしのぐときめて、一度の飯代にと残しておいたわずかな銭を、革巾着の底を払って、皆、その男に与えてしまった。
「ありがとうございます」
正直者は、当然なことをして、過分な礼に会ったので、銭を額に押しいただくと、ほくほくして立ち去った。
――もう一箇の銭もない。
武蔵は、無意識の中に、銭の後ろ姿を見送っていた。与えながら、与えた後は、ちょっと途方に暮れた気持になった。空腹はもう夕刻から頻りに迫っていたのでもあるし――。
けれど、あの銭が、あの正直者に持ち帰られれば、自分の空腹をみたす以上、何かよいことに費われるにちがいない。それからあの男は、正直に酬われることを知って、明日もまた、街道へ出て、ほかの旅人へも正直に働くだろう。
「そうだ……この辺で一宿の軒端を借りて朝を待つより、これから和田峠を越えて、先へ行ったという奈良井の大蔵と城太郎に追いつこう」
今夜のうち和田を越えておけば、明日は何処かでその人と城太郎に出会うかも知れない。――武蔵は忽ち思い立って、やがて諏訪の宿場を出はずれ、久しぶりに暗い道を、独りすたすたと夜旅の味を踏みしめて行った。