Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
街の雑草
一
あれだけ漬けるには、塩だって沢山いるだろ」
「塩は腐らないけれど、梅の実は漬けとかないと腐っちまうじゃないか。小人数だって、戦争の時だの、洪水の時には、ふだんに要心しておかないと困るぜ。――おばさんは病人の世話で忙しいから、おらが漬け込んでやるよ」
「まあ、この子は、大洪水の時のことまで考えているのかえ。子供みたいじゃないね」
伊織はもう、物置へ入って、空樽を庭へ持ち出している。そして梅の樹を仰いだ。
他家の世話女房を窘める程、子供に似げない才覚や生活の自衛を心得ているかと思うと、もうすぐ樹の肌に止っているミンミン蝉を見つけて、それに気を奪られていた。
そっと寄って、伊織は、蝉をおさえつけた。蝉は彼の掌の中で、老人の悲鳴みたいに啼き立てた。
自分の拳をながめて、伊織は不思議な感に打たれている。蝉には血がない筈なのに、蝉の体は自分の掌よりも熱かった。
血がない蝉でも、死ぬか生きるかの境には、火のような熱を体から燃やすのであろう。――伊織は、そこまでは考えなかったが、ふと怖くなって、また可哀そうになって、その掌を大空へ上げて開いた。
蝉は、隣の屋根へぶつかって町の中へ反れて行った――。