Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme

Aozora Bunko

九

「よくも。――この阿女」

又八の刀は、お通の帯の結び目をかすめていた。

(逃がしては)

と、焦心って来て、又八は、

「おばば、おばばっ」

と、お通を追いかけながら、一方へは呼び立てる。

声が届いたとみえる、お杉婆は彼方で、

「おう」

といった。

跫音を目あてに走って来ながら婆は、

「仕損じたか」

自分も小脇差を抜いて、うろうろ慌てまわる。

又八が彼方から、

「そっちだ、おばば、捕まえろっ」

呶鳴りながら駈けて来るのを見て、婆は眼を皿のようにし、

「ど、どこへ」

と、道を塞いでいた。

しかし、お通の影は見えないで、又八のからだが打つかるように眼の前へ来た。

「斬ったかよ」

「逃がした」

「阿呆っ」

「――下だ。あれがそうだ」

崖へ臨んで駈け降りていたお通は、崖の下の樹の枝に袂をとられていていた。

滝つぼに近いところとみえ、水音が闇を走ってゆく。足もとなどは見ようともしないのだ。お通は綻びた袂をかかえ、転ぶようにまた駈け出した。

母子の跫音はすぐ迫って来た。婆の声で、

「しめたぞよ」

というのが耳の後ろから聞える。お通はもう逃げても無駄な気がしてしまった。それに、前も横も壁で囲まれているように暗いそこは崖の低地でもある。