Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme
伊織の手を引っ張ると、
「嫌っ」
伊織は、首を振って、まだ泣いていたいように、谷川橋から動かないのである。
「はやく来い」
「嫌だ。嫌だ。――先生を、呼んで来てくれなければいやだ」
「武蔵どのは、すぐお帰りになるにきまっている。――来なければ、置いて行ってしまうぞ」
――でもなお、伊織は動かなかったが、その時、先刻見た猛犬の黒犬が、あの杉林のあたりの生血を啜り飽いたような顔して、勢いよくそこを駈け抜けて行ったので、
「あっ、おじさん!」
と、権之助のそばへ飛んで行った。
権之助は、この小がらな少年が、かつては、曠野の一軒屋にただ独りで住み、父の死骸を葬るのに、ひとりで持てないため、その亡骸を自分で刀を研いで二つに斬ろうとしたくらい、不敵なたましいの持主とは知らないので、
「くたびれたのだろ」
と、慰めた。
そして、
「怖かったろう。むりもない。――負ぶってやろうか」
と、背中を向けた。
伊織は、泣きやんで、
「ああ」
と、甘えながら、彼の背中へ抱きついた。
祭は、ゆうべで仕舞だった。あれほどな人出が、木の葉を掃いたように下山して、三峰権現の境内も、門前町のあたりも、ひっそりしていた。