Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme

Aozora Bunko

十

――武蔵が見たとたんにも、真っ先にそれをはっと感じた。

「……ああ。お通……」

凝然と、彼は彼女のまえに立っていた。そこまで、黙々と運んで来た脚をすら忘れていた。彼方に置き残された権之助もばばも、わざと寄って来なかった。むしろ身を消して、この浜辺を、彼と彼女との二人だけのものにして遣りたい気持すら抱いた。

「お通……さんか」

それだけの嘆声が、武蔵にも精いっぱいな言葉だった。

この年月の空間を、単なる言葉でつなぐには、あまりにも多恨であり過ぎた。

しかも、問うにも語るにも、今はそうしている時刻の余裕すらも既にないのである。

「からだが快くないようだが……。どんなだな」

やがていった。ぽつりと、前後もない言葉だった。――長い詩のうちの一句だけを摘んでつぶやくように。

「……ええ」

お通は、感情に咽せて、武蔵の面へ、眸さえ上げ得なかった。――が、生別となるか死別となるか、この大事な一瞬を、徒らに取乱したり、空しく過してはならないと、自ら誡めているらしく、じっと、理念の中に、自分を努めて冷やかに守っていた。

「かりそめの風邪か。それとも、もう永い煩いか。どこが悪い? ……そして近頃は何処に、どこに身を寄せておるのか」