Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
(隙を)
と、眼に充血を来し、
(八幡)
と勝ちを祈り、
(勝たねば)
と、躍起な焦りが湧いて来て、心はいよいよ躁がしい。
多くの場合、たいがいな者が、ここで渦潮に巻込まれたように狼狽に墜ちて溺れるのであった。しかし武蔵は、なんの心機をつかむともなく、そのあぶない自分の昏迷からふと浮び上がっていた。これは彼が、一度も二度も、生死のさかい目を踏んで来た体験の賜物にほかならぬものであろう。――はっと眼を拭かれたように気が醒めていたのである。
「…………」
「…………」
依然として青眼と青眼との対峙のままだった。雪は武蔵の髪の毛に積り、伝七郎の肩にも積っていた。
「…………」
「…………」
巌のような敵はもう眼の前になかった。同時に、武蔵という自己もなくなっていた。そうなる前に必然、勝とうという気持すらどこかへ消え失せてしまっている武蔵であった。
伝七郎と自分との約九尺ほどな距離の空間をチラチラと静かに舞っている雪の白さ――その雪の心が自分の心かのように軽く、その空間が、自分の身のようにひろく、そして天地が自分か、自分が天地か、武蔵はあって、武蔵の身はなかった。
すると、いつのまにか、その雪の舞う空間を縮めて、伝七郎の足が前へ出ていた。