Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
月一つ
一
老爺が、名残惜しげに、小さい窓から見送っていると、武蔵は、十歩ほど往来をあるくと、布緒の草鞋の緒を、ちょっと締め直していた。
月一つ
一
つかの間であったが熟く眠ったと思う。頭脳のうちはこよいの夜空のように冴え、澄み切ったそのものと、この身とが、恰も、ひとつ物のようにすら見えて、一歩一歩なにものかの中へ、身は溶け入ってゆくのかと思う。
「ゆるりと歩もう」
武蔵は、意識的に、大股な足癖を惜しんで――
「……さて、人間の世をながめるのも、今夜かぎりとなったな」
なんの詠嘆でもない、悲嘆でもない、そう痛切なる感慨では決してなかった。ふと――しかしなんらの虚飾もない心の底から――ふっとのぼった呟きであった。
まだ、一乗寺址下り松までは、だいぶ距離があるし、時刻も夜半を過ぎたばかりなので、死というものが、顔の前まで切実に感じられて来ないのだろうか。
きのう一日、鞍馬の奥の院へ行って、松籟の中に、黙って坐りこんで降りて来たのであったが、無相無身になってみようと努力したその時のほうが、どうしても、死というものから離れられなくて、結局、なんのために坐禅などしに山へのぼったのかと、浅ましくさえ覚えた。