Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
がたを見出した。
「ああ、富士山か」
武蔵は少年のように驚異の声を放った。絵に見ていた富士、胸に描いていた富士を、眼のあたりに見たのは、今が生れて初めてなのだった。
しかも寝起きの唐突に、それを自分と同じ高さに見出して、対い合ったのであるから、彼はしばらくわれを忘れ、ただ、
「――ああ」
というため息を胸の中に曳いて、瞬ぎもせず眺め入っていた。
何を感じたのであろうか、そのうちに武蔵の面には涙の玉が転びはしっている。拭こうともしないで、その顔は朝の陽に灼かれて涙のすじまで紅く光って見えた。
――人間の小ささ!
武蔵は衝たれたのである。宏大な宇宙の下にある小なる自己が悲しくなったのであった。
明らかに彼の胸を割れば、一乗寺下り松で、吉岡の遺弟何十名という数を、まったく自己の一剣の下に征服してからは、いつのまにか彼の胸にも、
(世の中は甘いぞ)
と、ひそかに自負の芽が萌していた。天下の剣人と名乗る者は数あっても、およそ何程のものでもあるまいという慢心が首を擡げかけていた。
だが。
たとい剣において、望むがごとき大豪となったところで、それがどれほど偉大か、どれほどこの地上で持ち得る生命か。