Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Lesen Sie 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 350.912 Zeichen · 702 Bildschirme

Aozora Bunko

今朝は、飼い馴れたこの鷹にも、戦気があった。

「お城へ帰れ」

巌流は、鷹の足環を解いて、鷹を拳から空へ放った。

鷹は、常の狩場の的のように、空へ翔けると、逃げる海鳥へかかって、白い羽毛を降らした。しかし再び飼主が呼ばないので、お城の空や、島々の翠をかすめて、やがてどこかへ見えなくなった。

巌流は、鷹の行方を見ていなかった。鷹を放つと、巌流はすぐに、身に着けている神仏のお札やら手紙の反古やら、また、岩国の叔母が、心をこめて縫って来た梵字の肌着までを――すべて元来の自己以外の物は――みな投げて、潮へ流してしまった。

「さっぱりした」

巌流はつぶやいた。

今の絶対的なものへ向って行くあの気持には、あの人、この人と、思い出さるる、情や絆は、すべて心の曇りになると思った。

自分に勝たせようと祈ってくれる、大勢の人々の、好意も重荷であった。神仏のお札さえ、邪げと彼は思ったのである。

人間。――素肌の自己。

これ一箇しか、今は、恃むもののないことを、さすがに悟っていた。

「…………」

潮風は、無言の彼の面をふいた。その眸に――船島の松や雑木の翠が、刻々に、近づいていた。