Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
なんとも思っちゃいねえから、そんな心配はしないがいい。――それよりはなんのために、急に旅支度して、こんな所を今頃歩いているのか」
「旅籠の離れで、あなたがおっ母さんに話していたことを、ふと、蔭で聞いていたものですから」
「フーム、すると、武蔵と吉岡勢との、きょうの果し合いの一件だな」
「……ええ」
「それで急に、一乗寺村へ行くつもりでやって来たのか」
「…………」
朱実は答えなかった。
一つ家に暮していた頃から、朱実が胸に秘していたものは何か、それは又八もよく知っていた。――で彼は、深くは問わずに、
「そうそう」
急に言葉を変えて、
「今し方、この辺で、キャーッという悲鳴が聞えたが、あれはもしや、おめえの声ではなかったか」
と、この沢へ降りて来た目的に返って、そう訊くと、
「エ。わたしでした」
朱実はうなずいた。
そしてまだなにか、恐怖の夢でも見ているように、この沢の窪から突兀と空に黒く見えている山の肩を振り仰いだ。
四
そこでその事実を、彼女自身が話すところによると、こうである。
――つい今し方のこと。
彼女が、この沢の渓流を越え、そしてここからも見える眼の前の――突兀とした岩山の中腹までかかって行くと、ちょうどその山肌の肋骨の辺りになる岩頭に、世にも怖ろしい妖怪が腰かけていて、月を眺めていたというのである。