Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
「……ああ、修行なんて、もう止めようか?」
うつろな眼をあげて、武蔵はなお、門前に立ちつくしていた。
暮れかかって来る夕風夕空の中に、白い山ざくらは散りまよっている。きょうまでの一心不乱も、その花びらのように霏々と砕けて宙にさまよう心地がする。
「……そして、お通さんと」
彼はふと、町人の気楽さを思いうかべた。光悦や紹由の住んでいる世間を考えた。
(いや! ……)
大股に、彼は、無動寺の中へ姿をかくした。
部屋にはもう明りがともっていた。ここも今夜かぎりに去らねばならない。
(巧拙は問うところでない、供養の心もちが、菩提へとどけば足りるのだ。――今夜のうちに彫り上げて、この寺に遺してゆこう)
武蔵は、短檠の下に坐った。
そして彫りかけの観音像を膝の上に抑え、彫刀を把って、一念にまた、新しい木の屑を散らしはじめた。
――と、戸締りもない無動寺の大廊下へ、そっと這いあがって、のろまな猫のように、部屋の外にかがみこんだ者があった。
七
短檠の灯が翳くなる……
丁字を剪る。
すぐ、武蔵はまたかがみ込んで、彫刀を把る。
宵のうちすでに、山は、深沈とふかい静寂に囲まれていた。