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Japanische Klassiker mit Furigana

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めいあん

明暗

夏目 漱石

Lesen Sie 明暗 (めいあん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 322.590 Zeichen · 645 Bildschirme

Aozora Bunko

俥は前後ともすぐとまった。

「大変。忘れものがあるの」

車上でふり返った津田は、何にも云わずに細君の顔を見守った。念入に身仕舞をした若い女の口から出る刺戟性に富んだ言葉のために引きつけられたものは夫ばかりではなかった。車夫も梶棒を握ったまま、等しくお延の方へ好奇の視線を向けた。傍を通る往来の人さえ一瞥の注意を夫婦の上へ与えないではいられなかった。

「何だい。何を忘れたんだい」

お延は思案するらしい様子をした。

「ちょっと待っててちょうだい。すぐだから」

彼女は自分の俥だけを元へ返した。中ぶらりんの心的状態でそこに取り残された津田は、黙ってその後姿を見送った。いったん小路の中に隠れた俥がやがてまた現われると、劇しい速力でまた彼の待っている所まで馳けて来た。それが彼の眼の前でとまった時、車上のお延は帯の間から一尺ばかりの鉄製の鎖を出して長くぶら下げて見せた。その鎖の端には環があって、環の中には大小五六個の鍵が通してあるので、鎖を高く示そうとしたお延の所作と共に、じゃらじゃらという音が津田の耳に響いた。

「これ忘れたの。箪笥の上に置きっ放しにしたまま」

夫婦以外に下女しかいない彼らの家庭では、二人揃って外出する時の用心に、大事なものに錠を卸しておいて、どっちかが鍵だけ持って出る必要があった。