Japanische Klassiker mit Furigana
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めいあん
明暗
Lesen Sie 明暗 (めいあん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 322.590 Zeichen · 645 Bildschirme
百七十二
彼女の名前を口にするに堪えなかった。その上後で面倒でも起ると悪いとも思い返した。手代から顔を離して馬車の背に倚りかかり直した彼は、再び沈黙の姿勢を回復した。
百七十二
馬車はやがて黒い大きな岩のようなものに突き当ろうとして、その裾をぐるりと廻り込んだ。見ると反対の側にも同じ岩の破片とも云うべきものが不行儀に路傍を塞いでいた。台上から飛び下りた御者はすぐ馬の口を取った。
一方には空を凌ぐほどの高い樹が聳えていた。星月夜の光に映る物凄い影から判断すると古松らしいその木と、突然一方に聞こえ出した奔湍の音とが、久しく都会の中を出なかった津田の心に不時の一転化を与えた。彼は忘れた記憶を思い出した時のような気分になった。
「ああ世の中には、こんなものが存在していたのだっけ、どうして今までそれを忘れていたのだろう」
不幸にしてこの述懐は孤立のまま消滅する事を許されなかった。津田の頭にはすぐこれから会いに行く清子の姿が描き出された。彼は別れて以来一年近く経つ今日まで、いまだこの女の記憶を失くした覚がなかった。こうして夜路を馬車に揺られて行くのも、有体に云えば、その人の影を一図に追かけている所作に違なかった。