Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate

Aozora Bunko

「それはそうとね、市ノ瀬さん、あたし、あなたにお願いがあるの……」

夫人は、とつぜん、こう言つた。彼は、思わず腰を浮かせて、そつちをふり向く。いまだかつて、彼女からこういうふうに出られたことはないからである。――えゝ、えゝ、なんでもと、眼つきにものを言わせて、じつと夫人をみつめる。

「こればかりはと思つたんだけれども、もうどうにもならないから……。あのね、お炭なの。一俵でいゝからなんとかできないかしら?」

――なんだ、そんなことか、と、彼はすこしひようしぬけがしたけれども、

「はあ、承知しました。お安いご用です」

と、答えた。母親に相談して物置から一俵かつぎ出せばいゝと思つた。

「用意もわるいんでしようけど、いつたいどうなるの、これは? もつとも、これでなければ、だあれも騒ぎやしないわね」

夫人は、そこで精がないというふうに、肩をがくりとおとす。

「しかし、お宅のことぐらい、この家で面倒をみてくれませんか? くれんだろうなあ」

と、彼は、もう、自分でそれを言い、夫人のことさら返事をしない意味を察した。

頼まれた品物は、実をいえば、そんなに気を入れるほどのものでない。