Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate

Aozora Bunko

六

早く言えば、いやな顔をされないだけで、それで十分だつたのである。

ところが、今や、それだけでは十分とは言えなくなつた。どんなにかすかなしるしでもいゝ。ある反応、ある手ごたえのようなものが感じられたら、と、そういう欲望が急に頭をもたげてくる。――それがために自分はなにをしたか、とも考えてみる。しかし、それは、雄弁な沈黙という言葉もあるではないか。

二日ほど間をおいて、彼は、いつものように、池内家の坪庭の門をくゞつた。

六

「こんなにたび/\来てご迷惑じやないでしようか?」

と、市ノ瀬牧人は、すゝめられる座ぶとんを押しやりながら、いつものように腰をおろした。

「あら、どうして? そのかわりちつともおかまいしないわ」

井出夫人の、こともなげなあいさつである。

そういう意味ではなかつたのだが、と、市ノ瀬牧人は、相手の顔はみずに、大きく息をついた。

身ぢかにこうして彼女を感じていること、それはこの世の中でいちばん貴重な生命にじかにふれていることであつた。無造作に立ち、すわり、あれこれと手を動かし、時々思い出したように話しかけるこの存在は、彼にとつては、光り輝き、ほのかなかおりをはなち、目に見えぬもののみにほほえみかけ、ちかづくものを酔心地にさせる不思議な存在であつた。