Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
十二
お前は、うなずいて、おれの顔をじつと見た。お前のその時の眼つきは、非常に美しかつた。美しいばかりじやない。非常に力強いものを感じさせた。おれは、これなら大丈夫だと思つた。お前のその時の眼つきに、おれは、それから三度ぶつかつた。一度はヨーロッパへたつた時、一度はノモンハンから帰つた時、それから最後は、この五月、あの焼跡の灰のなかだ……」
夫の手が肩へまわつた。彼女は、されるがまゝにからだを曲げた。夫の顔が近づく。その視線に射すくめられるように、彼女は眼を伏せた。
「実を言うとなあ、おれは、お前たちのことを考えても、もうこれ以上生きていたくないのだ。生きていても、なにもならんと思うのだ。ほかの軍人は知らん。おれだけは、徹頭数尾、軍人として生きて来た。それ以外の生き方はどうしても考えられない。唯ひとつの使命が永遠に終つた時、おれの生涯は、いわば尽きたのだ。そこでだよ、お前に相談というのは……」
十二
しばらく夫の言葉がとぎれると、康子は、不意に夫の腕をふりほどくように、からだを引き、
「そういうお話、こんな陰気なお部屋の中で伺うの、あたくし、いや」
と、きつぱり言い放つた。