Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
八
と見せつけられたためである。
八
辰野駅へ着くと、もう夜は白々と明けはじめていた。
汽車がわずか遅れたために、飯田線の初発は出てしまつたあとで、康子はその次ぎを待つために駅前の茶店でひと休みしようか、それとも、寒いのをがまんしてホームへはいろうか、と迷つていた。
すると、ちようどそのかたわらを、重そうなリュックをかついで一人の中年の男が通りかゝつた。オーバーに中折れという服装がリュックとつり合わぬおかしさはだれの目にももうなれて来たが、その男は、おまけに人形のはいつたガラス箱を大事そうに抱えているのが漫画風の愛きようをそえていた。
彼女はなにげなくその男の顔をみたのだが、向うでも、こつちをしげ/\とながめ、行きすぎようとして、ふとうしろをふり向き、ちよつとためらいながら、そばへ寄つて来る。
と、その時、彼女は、たしかに知つている顔だと気がついたけれども、どうしても名前を思い出せない。
「失礼ですが、井出さんの奥さんじやいらつしやいませんか?」
ていねいに帽子をぬいで問いかけた、その額のくつきりと上半分の白い――つまり日にやけた顔が帽子のところだけ白くなつている、それだけのことで、すぐに康子の記憶はよみがえつた。