Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
二
最悪の場合を想像すればできなくもないし、最善の場合もまた考えられないではなかつた。
五月以後、久々の汽車の旅は、こむとかこまぬとかの話ではなく、これでも人間かと思われるような無気味な混乱の数時間であつた。
夫の勤務先で、同時に宿舎になつている工しようは、八王子から厚木へ通じる電車の沿線で、H町という停留場で降りることになつているのだが、彼女は直接そんなところへ足を運んだことはかつてなく、おまけに電車の故障で思わぬ時間を食い、H町へ着いたのがかれこれ九時近くであつた。そして、駅の前は手さぐりでも歩けぬような暗さである。
二
若しや迎えが来ていはせぬかと、そのへんをながめまわしたが、人ッ子一人みつからぬ。時間を知らせずにたつて来たのだから、と思い直す。何処かで工しようのありかを訊ねようと思う。ところが、店らしい店は何処にもない。駐在所のありかでも見えればと、やみをすかしてみるけれども、そんなものはてんで眼にとまらぬ。たゞ、空をあおぐと、まばらな星の光が遠く廃きよのような建物のどす黒い輪郭を描き出しているだけである。
いつ時、康子は途方にくれる。
歩いてどれくらいかゝるのか、夫からそれほど遠いとも聞いていなかつた。