Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
「トムちやん、おなかすかない? すいたら、お握りあげるわ」
握り飯を竹の皮の包みから一つ、つまみあげようとすると、いきなり、にゆつと黒ずんだ大きな手が左右から出た。思わず顔をあげると、浮浪者のような男が一人と、そのそばに、中年の身なりはさほどひどくもない女とが、それ/″\片手をつき出しているのだとわかつた。二人とも口はきかない。差しだした手がすべてを語つているのである。隣りにいた若い女が、康子のひじをつゝいて、小声で教えた――
「だめですよ、こゝでそんなもの出しちや……」
彼女はしかし、知らん顔はできなかつた。残り少い握り飯を一つずつ、その差しだされた手にのせた。
終つたはずの戦争が、こゝにもまだ長く尾を引いているのに彼女はりつ然とした。
「どちらへ?」
と、若い女は、しばらくして康子に声をかけた。
「あたくしたち? ワッカナイですの、北海道の果ですわ」
「わたしたち、樺太からやつと引揚げたばかりなんですけれど、また、行けるようになつたら行こうと思つて……」
「それで? 今からどこまでいらつしやるの?」
「どこでもいゝんです。すぐ渡れるようなところへ行つて、待つてますわ」