Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
と、市ノ瀬の方へ眼で笑つてみせる。
「やあ、自慢にはなりませんよ。この土地にはどうも名所つていうもんがないでね。天竜峡つて騒ぐけれども、あんなもの、どこにだつてあるしね」
「それでいゝのよ。こゝが名所だつていうようなところに、ろくなところはないわ。ほんとにいゝ景色だつていうところは、なにもかもぜんたいがいゝんですもの」
「じや、下伊那はどうだね? ぜんたいがいゝですか?」
「さあ……」
こんなむだ口をきゝあつているうちにも、彼女には、市ノ瀬牧人の、なんとかしてこつちの満足をかち得ようと心を砕いている様子があり/\とわかつた。そして、どうかすると、それが思うようにいかない当惑のしかたは、いじらしく、おかしかつた。
はじめて会つたころは、どことなく、ひと癖ありそうな、物に動じない、しんの冷たい男にみえたのに、ちかごろは、まるで気のおけない、時としては、おど/\しているようにさえみえる、一個のいなか書生にすぎない彼のこの変りようを、彼女は、しかし、たゞの変りようだとは思つていなかつた。この素ぼくな男ごころに、すこしでもそれらしく感応するためには、彼女は、あまりに成熟していたというほかはないのである。