Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
五
五
康子は、ほつとした。これで早く夜が明けてくれゝばと思つた。さつきからすこしずつ空腹を感じはじめていたが、弁当を出して食う気にはなれない。また、うつらうつらした。
ストーブの火が落ちて、急に部屋が暗くなり、背筋が冷やりとするように思つた。で、そこにある薪を取りあげて、二三本くべた。なるべく音をたてないつもりでいたのにふたがよく締らない。
果して、隣室では、男が眼をさましたらしく、
「薪はそこにあるだけ燃しちまつていゝから……。湯は沸いとるかね? 茶をいれるかな」
彼女は、自分のためならもう結構と云おうとしたが、男は、もうそこへ現われて、電燈をつけ、黙つて茶をいれ、茶わんの一つをあごでさし、自分も音をたてゝ熱い茶をすゝり、
「豆はどうだね、豆は?」
と、ドンブリに入れた大豆のいつたのを、ボリ/\かじつた。
茶わんを口へもつていつた彼女の鼻先へ、大豆のドンブリを突き出して、
「さあ、おつまみ」
「えゝ、ありがとう。たくさんですわ」
「遠慮せんで……さあ……」
「ほんとに、あたくし……歯がわるくつて……」
歯はべつだん悪くもないのだけれど、彼女は、そんなものは欲しくなく、また、食べなければわるい、とも思わなかつた。