Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
しかし、なにかにつけて、ふとみせる真実のすがたは、康子の心を深く動かした。
「ヨシ子さんておつしやつたわね。ご姓は?」
「え?」
「なにヨシ子つておつしやるの?」
「あゝ、そんなもの、どうだつていゝのよ。わたしなんか、たゞ、ヨシ子でいゝのよ。どこのヨシ子だつておんなじよ」
「そうね、女はどうせすぐに姓なんか変えるんですものね。あたし、井出康子、お聞きにならないけど、自己紹介しとくわ。あつちへ行つたら、中園つていう家に多分落ちつくでしようけれど、なんかのことで、もし思いだしたら、訪ねてちようだいね。北洋海産合資会社の中園方、いゝこと……? こんなこというと変だけど、あたし、一生、あなたのこと忘れられないわ。今までに知つたど人な女のひとよりも、あなたは、美しいわ。いゝえ、そんな、顔だとか、姿だとかいうことでなく……それ、ほんと……信じてちようだい……」
康子は、自分ながらいくぶん感傷的になつていることは気がついていたけれども、それだけのことは、どうしても言わずにいられなかつた。
汽車は朝のさわやかな日を窓から受けていた。白一色の平野は、紫にかすむ遠山のながめを澄んだ空の中に浮かせ、葉の落ちつくしたポプラのしなやかなこずえが、刷毛でぼかしたようなすがたで、一列に立ちならんでいた。