Classici giapponesi con furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Leggi 火の扉 (ひのとびら) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.467 caratteri · 257 schermate
気まずく夫の一徳は口を結んだが、二人はそれからいつたん工しようのさつきの部屋へもどり、また、こんな問答をかわした。
「では、もうお前に用はないから、すぐに帰れ」
「いゝえ、あたくしはこのまゝこゝにいさせていたゞきます」
「バカいうな。こゝは役所だ」
「でも、プライヴェートのお部屋じやございません? あなたのおそばにいさえすればよろしいんですわ」
「なんだ、監視か」
と、夫ははじめて苦笑した。
康子はそういう夫のすきをのがさなかつた。
ともかく、もう任務を終つたこの役所をさつそくにも引きあげることをすゝめ、どうあつてもいつしよに信州へ連れて行くといつてがんばつた。彼女の腕は、まなざしは、そしてくちびるは、夫のかたくなな心を次第にほぐした。
その日、彼等夫婦は、H町の安宿に部屋をとり、翌日は一徳が多少顔なじみになつている浅川在のさる料理旅館へうつり、そこの離座敷で、前後十日間、まことに奇怪な同居生活をいとなんだのである。
早く子供のそばへ帰つてやろうと彼女が言えば、夫の一徳は、――まあ、まあ、もうすこし、と言つて腰をあげない。そうかと思うと、朝起きぬけに宿を出て、夕刻にならなければ顔をみせないこともある。