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さんごくし

三国志(七)

吉川 英治

吉川英治『三国志(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 371,916 字 · 744 页

青空文庫

ひとまず退け」

部下にも、逃げることのみ励ました。そして、蜀の旗が見える山は避けて廻ったが、それはみな擬兵に過ぎなかったことがあとで判った。先廻りした雷同が、諸所へ兵を登らせて、やたらに旗ばかり立てていたのである。

――が、そう知ったときは、すでに遅い。いちど崩れた陣形は、すぐ立て直しがつかなかった。ことに嶮岨な山岳地帯では。

「寨門を閉じろ」

辛くも、たどりついた一寨――宕渠寨のうちへ味方を収めると、彼は、きびしく岩窟の門をふさぎ、渓谷の柵門を固め、また絶壁の堅城にふかく隠れて、

「戦うなかれ」

を、旗じるしにしてしまった。

張飛もまた、彼方の一山にまで来て、山陣を張り、ここに山と山と、人と人と、相対して、

「いざ、来い――」の態勢をとった。

ところが、張※(「合+おおざと」、第4水準2-90-10)は、絶対に戦わない。こっちの山陣から小手をかざして見ていると、宕渠寨の高地へのぼって、毎日、莚をのべ、帷幕の連中と共に、笛を吹いたり、鼓を打ったり、酒をのんだりしている様子である。

「味な真似をしおるぞ」

張飛は、むずがゆい顔して、その態を、遠望していた。