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さんごくし

三国志(七)

吉川 英治

吉川英治『三国志(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 371,916 字 · 744 页

青空文庫

孔明を呼ぶ

一

「せっかく白帝城へ近づきながら石の擬兵や乱石の八陣を見て、急に退いてしまったのは、一体いかなるわけですか、ほんものの孔明が現れたわけでもありますまいに」

と、半ばからかい気味に訊ねた。

陸遜は、真面目に云った。

「然り、我輩が孔明を怖れたことは確かだ。けれど引き揚げた理由はべつにある。それは今日明日のうちに事実となって諸公にも分ってくるだろう」

人々は、一時のがれの遁辞だろうとおよそに聞いていたが、一日おいて二日目。この本営には、櫛の歯をひくような急変の報らせが、呉国の諸道から集まってきた。すなわちいう、

「魏の大軍が、三路にわかれ、一道は曹休軍が洞口に進出し、曹真は南郡の境に迫り、曹仁ははや濡須へ向って、雲霞の如く南下しつつあります」――と。

「果たして!」と、陸遜は手を打って、自分の明察の過たなかったことを自ら祝し、また呉国のために、大幸なりしよと、すぐさま対戦の姿勢をとった。

一方。――彼のために再起し能わぬ大敗をうけた帝玄徳は、白帝城にかくれて後、まったく往年の意気もどこへやら、

「成都に帰って群臣にあわせる顔もない」

と、深宮の破簾、ただこの人の傷心をつつんでいた。