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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
吉川英治『三国志(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 371,916 字 · 744 页
二
「はるか、山に添い、江に臨んで、一陣の殺気が天を衝くばかりに立ち昇っている。必定、敵の伏兵が、殺を含んで待ち受けているものと察せられる。進むべからず、進むべからず――」
にわかに、十里あまり陣を退いて、入念に行く先をうかがわせた。
ほどなく、物見の兵が次々に帰ってきたが、云い合わしたように、同じような報告ばかりもたらした。
「おりません。敵らしい者は、一兵も見えません」
陸遜は怪しんで、
「はてな?」
ふたたび山へ登って、彼方の天をじっと見ていた。そして唸くようにつぶやきながら降りてきた。
「濛々たる鬼気、凛々たる殺雲。どうして伏兵でない筈があるものか。物見の未熟にちがいない。老練な隠密を選りすぐってさらに入念に見とどけさせろ」
二
日も傾いて、夜に入ったが、陸遜はなお気にかかるとみえ、幾度も陣前に出て、魚腹浦の夜空をながめていた。
「ふしぎや、夜に入れば、昼よりもなお、殺気陰々たるものがある。そも、彼処の伏兵は、いかなる神変の兵であろうか」
さしもの陸遜も、懐疑逡巡して、夜もすがら心の平静を得なかったようである。
未明の頃ようやく、老練な物見の上手が、
「見届けて来ました」