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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
吉川英治『三国志(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 371,916 字 · 744 页
馬忠は身の危険をさとるとにわかに相手を捨てて谷ふところへ逃げ去ってしまった。
「老将軍。もうご安心なさい」
耳もとでいわれたが、黄忠はそれから後のことは何も覚えなかった。彼が気づいてみたときは、味方の陣中に安臥して、関興や張苞の手で看護されていた。
いや、誰かうしろで、自分の背を撫でてくれる人があるので、苦痛をこらえて、ふと振り向いて見ると、それは帝玄徳だった。
「老将軍。朕が過ちをゆるしてくれよ」
「あ……」と、愕いて、黄忠は起き上がろうとしたが、おびただしい出血と老衰とに、ただ苦しげな悶えをその表情に見せるだけだった。
「否とよ陛下。……陛下のような高徳の御方のそばに、七十五歳のこの年まで、久しくお仕えすることができたのは、実に人と生れた冥加この上もありません。この命、なんで惜しむに足らん。ただ、龍体を守らせ給え」
いい終ると、忽然、息が絶えた。
陣外には、白天地の夜を、吹雪が吹き暴れていた。
「ああまた一虎は逝いた。五虎の大将軍、すでに逝くもの三人」
成都へ彼の棺槨を送るの日、玄徳は曠野に立って灰色の雪空を長く仰いでいた。
「かくては」と、玄徳は自ら心を励まし、御林の軍をひきいて、凍る帝旗を、さらに、亭(湖北省・宜都の西方)まで進めた。