Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 508.883 Zeichen · 1017 Bildschirme
ふと、振顧ると、そこの泉が棗形の鏡のように眼の下に見えたのである。
さらに、もう一息、山道を登ってゆくと、東山殿の泉は、余りに近すぎて足元の木蔭にかくれ、加茂川の白い蜒りがずっと眼の下へ寄っている。
下京から上京まで、両手をひろげて抱えきれるような展望だった。ここからは、遥かに、
(一乗寺下り松はあの辺り――)
と、指さして、ほぼ遠く察することもできる。
大文字山、志賀山、瓜生山、一乗寺山――と三十六峰の中腹を横に這って叡山の方へすすめば、ここからそう時を費やさずに、目的の一乗寺下り松のちょうど真後ろへ、山の上から望むこともできるのだった。
武蔵の考えは、その戦法は――もう疾くから胸に決まっていたものらしい。彼は桶狭間の信長に思い合わせ、鵯越えの故智に倣って、あの当然に選ばなければならないはずの三道のいずれをも捨てて、まるで方角ちがいな、歩くにも難儀なこの山道の中腹まで登って来たに違いない。
「……やっ、お武家」
こんな所で人声は思いがけなかった。不意に、道の上から人の跫音がしたと思うと、彼の前に、狩衣の裾をくくり上げて、手に松明を持った公卿屋敷の奉公人らしい男が立って武蔵の顔を燻すように、松明の火を突き出した。