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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

無数に小船が纜っている。その一つへ飛び込んだ。つづいて三人がヒラリと乗る。崖へ手を延ばした薬草道人、その辺を探ると思ったが、手に連れて崖の一所が、グ――ッと左右へ押しひらけた。

「思った通りだ。蝶番い細工、崖の色合いによくにせて、ちゃんと水門が出来ていやがる」

小船、水路へ流れ込んだ。ズンズンズンズン流れて行く。水勢はゆるくはあったけれど、所々に瀬があって、ゴ――ッと高い水音がする。

「紅丸さんや、松火をおつけ!」

「はい」と云うと童子の紅丸、野宿の場合の用心に、いつも燧石を持っている。カチカチと磨ると火を出した。木口に移して早速の松火。忽ち水路明るくなる。水路の幅は約二間、しかも精巧に作られている。左右は岩壁、天井も岩壁ところどころに凹所がある。

ズンズンズンズン流れて行く。水勢益※(二の字点、1-2-22)ゆるやかだ。と、水路が小広くなった。水がよどんで動かない。と、道人声をかけた。

「船をお止め、船をお止め!」

棹を突っ張ると猪十郎、グ――ッと船を岩壁へ付けた。もう船は動かない。

天井を見上げた薬草道人、紅丸へ囁いたものである。「聞こえるだろうな、人声が」