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にんきょうにとうりゅう
任侠二刀流
国枝 史郎
「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页
初冬の門附け
しかし不安は依然として、残っているものと見なければならない。
それはともかくここに至って、この物語の主要人物、四方八方へ分かれてしまった。薬草道人とその連は、名古屋の城中にとどまっている。山影宗三郎一党は、蝮酒屋に籠もっている。島津太郎丸は海上にある。傍流ながら荻野八重梅、志水幹之介や阪東薪十郎、これらもどこかにいるだろう。うっちゃって置くことは出来そうもない。
月日が経って初冬となった。
初冬の門附け
名古屋へ初冬が訪れて来た。
利休の歯音がカラカラと響く、渡り鳥が空を行く、柳の葉がハラハラと散る。椿や山茶花が垣根に咲く、人の精神がスガスガしくなる。初冬! 全くいい季節だ! しかし困った季節でもある。前垂れがけに薄化粧、名古屋女の特色が、失われて行く季節でもある。すなわち厚ぼったくなるのである。こんな会話が道で聞かれる。
「花ちゃんどちらへ?」「糸屋さんへ」「喜イちゃんどちらへ?」「糸屋さんへ」――糸屋さんの繁昌する季節でもある。云いかえれば裁縫月! さてその季節のある朝の事、富士見原の往来で、チーンと三味線の音がした。門附けが一人通って行く。だがいったいどうしたんだ! こんな早朝に門附けとは? 扮装の貧しい若者である。