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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

はじめて流れた妖婦の涙

と、何者か彼の刀を、静かに持ち上げるものがある。幹之介ズ――ッと眼をやった。一人の女が蹲り、懐紙で血糊を拭っている。「八重梅!」「幹様!」――逢ったのである。

はじめて流れた妖婦の涙

逢った二人、八重梅と幹之介、顔を見合わせたものである。

キュ――ッと八重梅刀をしごいた、懐紙が真っ赤だ。血糊である。ポンと捨てると俯向いた。幹之介立って見下ろしている。ダラリと刀を下げている。はじめて人を切った刀である。ブルブルと切っ先の顫えていることは!

「きゃつを殺した! 薪十郎を!」

「常夜燈の蔭で見ていました」

「お前を殺そうとした奴だ」

「立ち聞きいたしましてございます」

「俺はな、俺はな、人を殺したのだ!」憑かれたような声である。依然佇んで見下ろしている。どうやら放心しているらしい。

「あなたは殺人をなさいました。それもみんな妾のために」地に坐ったまま荻野八重梅、眼を幹之介の顔へ注いだ。肩を縮め、膝を縮め、彫像のように動かない。

と、幹之介歩き出した。とりとまりのない歩き方である。

「どこへ?」というと荻野八重梅、袖を捉えたものである。

「うむ」と云ったが幹之介、しばらくじっと考え込んだ。