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にんきょうにとうりゅう
任侠二刀流
国枝 史郎
「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页
黙々と車を曳いて行く。御岳から都会へ下りて以来、一言も物を云わないのである。だが決して唖者ではない。聞くことばかりを欲していて、云うことを欲していないのらしい。営々として仕事をし、倦むことを知らない人間らしい。それが彼には満足と見える。
奉仕は人をして無言にする! 彼はその種の人間らしい。
海岸の道は歩きにくい。岩、貝殻、石ッコロ、芥や海草で一杯である。道人は跣足で歩いて行く。ちっとも苦痛を感じないらしい。
「道人様、道人様」紅丸やがて呼びかけた。「どこへおいでになるお意りで?」
「さあてね、どこへ行こう」
「それでは宛てがございませんので?」紅丸どうやら不安らしい。
「宛てっていったいどんなことかな?」道人一向平気である。
「宛てとは宛てのことでございますよ」紅丸喧嘩でも吹っかけそうだ。
「ナニサ俺だって知っているよ、その宛てという変なものをな。だが宛てという変なもの、きっと裏切られるという約束の下に、ヒョロヒョロ突っ立っているのでな、昔から俺は好まなかったよ。それだのに世間の人達は、むやみと宛てにばかり取り縋っているなあ。そうしてはいつも裏切られてばかりいるよ。