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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

意気地がないったらありませんや。……オヤ何んだ、あの女は?」

どうしたものか四十格好の男、急に駄弁を途中で封じ、ゾロゾロ通っている人ごみの方へ、吃驚したような眼を向けた。

真っ黒仕立ての一人の女が、人ごみを分けて影のように、スーッと走って行ったからである。

影法師のような黒装束の女、他ならぬ烏組のお紋であったが、屋敷を囲んでいる城方の人数をうまく眩まして脱出し、黒の忍びの衣裳のまま橘町までやって来たのであったが、あたりがあんまり明るくて、異形の姿が目立つので、内心困っているのであった。

それでも、とうとう芝居小屋の裏手、裏木戸の前まで辿り着いた。

あたりを見廻すと人通りがない。「まずよかった」と呟くと、切り戸口をトンと押した。スルリと入り込むと小広い裏庭、すぐ正面に建物があって、舞台裏へ通う口がある。番人の若い衆が立っている。

「八重梅太夫はおいでかね?」ツカツカ進むと烏組のお紋、気安そうに声をかけた。

驚いたのは若い衆だ。ジロジロお紋を見上げ見下ろしたが、

「いったい何んだい? お前さんは?」

「八重梅さんはおいでかねえ?」

「銭貰いだな、お前さんは。