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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

こう念じながら走るのであった。

火事場へ行く者、火事場から逃げる者、往来は人間で埋ずまっている。罵る声、叫ぶ声、叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)する声、悲鳴泣き声! 往来は声で埋ずまっている。掻き分け掻き分けひた走った。今日の地理で云うときは、別院の東側を南へ向け、七丁目から八丁目を過ぎ、橘町から東へ曲がり、真っ直ぐに行けば梅川町! さすがにこの辺まで来た時は、天こそカ――ッと赤かったが、人影はまばら、灯影もまばら、これまでが恐ろしい雑沓だったため、物寂しくさえも思われた。

と、黒々と木立が見えた。

「あれあそこが浅間様! もう一息でございます! さあさあおいでなさいませ!」

八重梅先に立って急がせた。

「急ぎましょう、お仙様!」

「急ぎましょう、浜路様!」

声を掛け合ってひた走る。

いよいよ行きついた浅間の社地! 見廻したが何んの人気もない。木立がすくすくと立っている。常夜燈の灯がまたたいている。奥に古びた社殿がある。ただそれだけだ、森閑としている。

ぼんやり突っ立った浜路とお仙、顔を見合わせたものである。

「誰もいない! 人ッ子一人も! いったいどうしたのでございましょう」