Classiques japonais avec furigana
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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
Lisez 雪之丞変化 (ゆきのじょうへんげ) de 三上 於菟吉 (みかみおときち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 344 083 caractères · 673 écrans
一一
一一
扨も、暴富を積んで宝が恒に身の仇、いつ何どき、いかなる禍いが身に及ぶかと、絶えず畏怖心から離れられぬ広海屋の主人は、居住坐臥、一刻一寸も警戒を忘れることは出来なかったので、とりわけ夜の居間や寝室は、念に念を入れたいかめしい用心ぶりだった。
彼と妻女との部屋は、店と、文庫蔵との間の、七間ばかりの別棟で、廊下で四方に連絡されているのだったが、樫の部厚な板戸で仕切った上に、荒目な格子、その内に木襖、更に、普通の唐紙や障子が入れてあるという工合で、更に、寝室の地袋戸棚の中には、地下へ下りる道が出来ていて、それが、裏庭に通じるような仕組になっていた。
そうした要害を、あらかじめ知りながら、憤怒のあまり、夜よ中に、広海屋の屋形に飛び込んで行った長崎屋が、易々と憎い相手に行き合って、恨みの匕首を、肥え肉づいた横腹に、突き込むことが出来なかったのは無理もないが、しかし、何分、紅毛油の大樽に、わざわざ火を点されたこと、火の手の廻り方が存外に早かったので、
「火事だあ! 火事だ!」
と、叫ぶ店の者どもの大声に、寝入りばなを目をさまして、パッと刎ね起きたときは、夫婦とも、尋常では、幾重の締りを潜って、逃げおおせることは出来ないのを知ったのだった。