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にんきょうにとうりゅう
任侠二刀流
国枝 史郎
「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页
仙はいまさねど仙あるが如し
「ご免ください」と声をかけた。森閑として返事がない。戸を押すと自然に開き、一つの部屋が現われた。まことに風変りの部屋である。部屋の四方に窓があり、日光が酒のように流れ込んでいる。円卓が一つ、椅子が二つ、その他には何にもない。そうして一人も人がいない。と、正面に戸口があった。大変無作法とは思ったが、お仙は隣室へ行ってみた。そこはほとんど真っ暗であった。ただ正面の一所に、焔が花弁のようにもえ上がっていた。シンシンという釜鳴りの音! 炉があって釜がかかっている。強烈な薬の匂いがした。製薬室に相違ない。やはり人はいなかった。前房へ帰って来た組紐のお仙、横手の戸口から外へ出た。とそこは廻廊で、別の建物に通じている。
と、廻廊の行手から、子供の歌声が聞こえて来た。
「松下童児ニ問ウ、云ウ師ハ薬ヲ採リ去ルト、只此山中ニ在ラン、雲深クシテ処ヲ知ラズ」渓流のように澄み切った、響きの高い声であった。すぐ行手から唐子姿の、八九歳の童子が現れた。
仙はいまさねど仙あるが如し
詩を吟じながら現れた童子、お仙を見ると眼を瞶った。
「これはこれはお客様で、いつの間においででございましたな」