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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

隣室から聞こえる祝詞の声

まるでこっちから頼んでいるようだ。いやしかし面白い。俺はそういうお前のような、偏屈者が大好きだ」

「ドッコイショ……これはいけない。……相済みませんがちょっと手を」

「やれやれ腰が立たないのか」

「さっきの奴らに二つ三つ、腰のあたりを蹴られましたので」

「人を助けるのも考えものだ、薄穢いお前の手を、では引かなければならないのだな」

「きっとよいことがございましょうよ。神様のお恵みだってございましょう。さあさあ遠慮なくお引きなすって」

「恩に掛けて手を引かせる、開闢以来ない図だな。それもよかろう。さあ立ったり」

グッと引くと顔をしかめ、

「お侍様、もっと手軟かにね」

隣室から聞こえる祝詞の声

山袴を穿き袖無しを着、頭巾を冠った老人を旅装派手やかな江戸の武士が、手を引いて行く格好は、全く珍らしい見物である。

「どうやら小屋へ参りました。お急ぎでなくばお立ち寄り、休んでおいでなさいまし。へえへえ白湯ぐらいは差し上げます」

一方は谷、一方は曠野、名づけて神代原という。もうこの辺はプンプンと、薬草の香に馨っていたが、その一所に立っているのは、障子の代りに蓆を垂らし、茅の代りに杉葉を葺いた、粗末な黒木の小屋であった。