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にんきょうにとうりゅう
任侠二刀流
国枝 史郎
「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页
「おい婆さんや今帰ったよ」
門口に立って声を掛け、蓆を開いて内へはいったが、誰もいないか森閑としている。
大きな囲炉裏、自在鉤、焚火がドカドカ燃えていて、茶釜がシンシンと煮えている。板敷きに円座が二三枚、奥にも部屋があると見えて、仕切りに茣座がつるしてある。屋内は暗く煤ぶれ返り、四方の荒壁にはひびがはいっている。
円座へ坐った宗三郎、白湯で咽喉をうるおした。
と、その時どこからともなく、祝詞の声が聞こえて来た。
「はてな?」と思って耳を澄ますと、隣りの部屋から来るらしい。「これは不思議」と立ち上り、仕切りの茣座を掲げて見た。
「むう」と唸ったものである。思いもよらない光景が、展開されていたからである。
真正面に白木造りの神棚、点し連らねた無数の燈明、煙りを上げている青銅の香炉、まずそれはよいとして、神号を見れば薬師如来、それと並んで掛けられた画像! 白髪白髯鳳眼鷲鼻、それでいてあくまで童顔であり、身には粗末な襤褸を着、手に薬草を持っている。一見すると支那の神農、しかし仔細に見る時は、紛れもない日本人、それも穢い老乞食、だが全幅に漲る気品は、奕々として神のようである。