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にんきょうにとうりゅう
任侠二刀流
国枝 史郎
「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页
河東節の水調子
――
「お待ちになって、え、幹様?」
「ああ待ったよ、メチャメチャにな」
「可哀そうな坊やでございます」
「ああそうとも、可哀そうな俺だ」
「お泣きなさりませ、膝を枕」
「泣きたいなア、思い切って」
「涙は妾が拭きましょうよ」
「そうしてお前は泣かないのか?」
「今まで泣いて参りました。あの、杉酒屋のお三輪でね」
「うむなるほど、舞台でか」
「縫之助様を追っかけて! 意地悪い官女に嬲られてね。そうして殺されたのでございますの、あの恐ろしい鱶七にね」
「舞台で泣いた涙なら、空涙という奴さ」
「でも悲しゅうございました」
「俺の知ったことではない」
「あんなにつまされて泣いたのに」
「ああ泣きたいのは今の俺だ!」
「泣くのはよいものでございます。胸がスッと開きます」
「開くかなア、この胸が!」
「おや、お客が上がったらしい。河東節の水調子、二階から聞こえて来るじゃアないか」
なるほど、三味線の音色がする。錆びた男の唄声がする。
じっと二人聞きすました。
※(歌記号、1-3-28)なくより外の琴の音も
二十五絃の暁に
「いいわねえ、玉菊だよ」
※(歌記号、1-3-28)くだけて消ゆる玉菊の
光は仮りのものながら