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にんきょうにとうりゅう
任侠二刀流
国枝 史郎
「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页
恋と怨み浅間の社地
このへんから新規の事件が起こる。
恋と怨み浅間の社地
朝まだきの富士見原、往来に立った阪東薪十郎、俄盲目の俄門附け、弾いて唄うは河東節、水調子の玉菊である。
佇んで聞いている志水幹之介。
「秋の一夜だ、武蔵野の茶屋で、最後に八重梅と逢った時、二階から聞こえて来た河東節、あああいつに似ているなあ」いつまでも佇んで動かない。
と、薪十郎歩き出した。「懐中も冷めてえが浮世も冷めてえ」もう一度呟やいたがコツコツと行く。突っ張る杖も覚束ない。胸を反らせて首を縮め、さもあぶなっかしい歩い方である。突きあたってはヒッ叱られ、ぶつかっては毒吐かれ、そのつど「へえ」とお詫びをする。春日町を通って飴屋町、梅川町まで辿って来た。宛なしに辿って来たのである。と、小暗く木の茂った、一構えの社地が現われた。古びた社殿、狐格子、縁も所々破損んでいる。一対に並んだ常夜燈、すなわち浅間の社地であったが、早朝のことで人気なく、森閑として寂びている。「何んだか森の気が感じられるなあ」阪東薪十郎杖を止めた。「いってえここはどこなんだろう?」またコツコツと歩き出した。「あッ、痛え!」と喚いたのは、社殿の縁へ向こう脛を、いやというほどぶっつけたからだ。