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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

もし金のことで間違いが起ったら、自分達でひきうけるからと、口を酸くしていったが、それでも取らないので、仙吉が長屋を代表して預かっておく。そして意義のあるように費う、と言って自分の手へ預かった。

「もう犯人も分っているし、いつでも、自首させることになっているんだから、近いうちに、きっと亀田さんを長屋に帰してあげるぜ。……だから気を落しちゃいけねえぜ」

トムはそれから、母の収容されている赤十字病院の所と部屋の番号をくわしく聞いて、

「どうしても、おっ母あに会って来る!」

と、仙吉が危険だと言って止めるのを振り切って、そこへ廻った。

植木商会のひろい庭園を抜けると、道が半分も近いので、彼は、通行の止められている柵を越えて、背のたかい蘇鉄の葉や温室のあいだを駈けぬけた。金釦をつけた制服の園丁が、花の蔭から彼のすがたを見たけれど、咎めなかった。

輸出向の百合の根がたくさん蓄えられてある倉庫の間から、彼は山の手通りへ飛び出した。五、六丁、桜並木の蔭を走ると、右がわにひろい空地をかこんだからたちの垣がある。

そのまん中にある三階建ての古い病舎が、赤十字病院だった。