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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

童貞洗礼

「蓄音機だよ」

と、女将が教えた。

女将が、銀貨を払ったので、雛妓たちは、空いているゴム管を見つけて、象牙の乳首を耳にはさんだ。

「あら、浪花節が聞こえる」

とふしぎな世界をのぞくように、彼女たちは、眼をまるくした。そこでも、豆菊は、気おくれがしたように、その小さなからだを、うしろの方に隠していた。

と、誰か、彼女の背なかを、指で突いたものがあった。

「? ……」

豆菊は、ちらと、後ろをみたけれど、知らない顔をしていた。

また、人の間から、指が出て、同じところをついた。

豆菊は、かぶりを振った。

また、指が出た。

また、かぶりを振った。

「――ちぇっ、いやなやつ!」

投げるように言って、アセチリン瓦斯の人群れから、相生座の横の方へ、抜け出して行ったものがあった。

「ちぇっ、いやなやつ!」

トム公は、暗い空地から振りかえって、もういちど呟いた。

童貞洗礼

空地の向うには、射的場、釣堀屋、ミルクホール、白粉地獄といっていい家の灯がならんでいた。

コールタアで塗った相生座の高い二階窓から、壮士役者が白い首を出して、射的場の女と、手で信号をしていた。

「オホホホ、オホホ」