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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
鵜
「そのうちに、通りがかりの沖人夫だの、石炭かつぎだの、あの辺のコックや御用聞きまで、みんな、河の中へはいって、宝さがしを始めちまったもんでさ。――だから、今朝の人ッたらありませんや、新聞記者までやッて来るという騒ぎでね」
「それを、知らせに来たのか」
「へえ、何しろ、河の底を足でさぐると、いくらでも、金時計が出て来るが、大体、これは、誰が落したものかということが、今朝のうちにぱっと、横浜中の大評判でしょう。――それが分りゃ、すぐに此窟へ火がつきますからね」
「なあに、そんな心配はねえ」
と、彼は意志強そうに、かぶりを振ったが、そのことばの下からすぐに――「心配はねえけれど、だが、たいへんな損害だ。あの河の金時計をみんな拾われてしまったひにゃ、おれたちが、日本で稼ぎ込んだ儲けを、みんな注いでも足らねえからな」
と、肺臓の沈澱物でも吐くように、鼻腔から重くるしいため息をついて、椅子の角へ、がっくりと首をのせた。
鵜
むろん午前ではあるけれど十一時半ごろだった。――あれからトム公が眼をさましたのは。
幾つもある阿片寝床には、もうゆうべの愚連隊たちはひとりも見えなかった。