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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
男女のユダ
で――翌日、その柳田商会へ、電話でたずねてみることにした。電話口に出たところはたしかにあの狒々旦那であった。
「……はあ、はあ、お光ですか。お光ならば、こちらへ来るのをお待ちになるよりも、明日、根岸の方へ行ってお探しになる方が早うございますよ。根岸? ……え、あの、競馬場です。何でも、明日が初日だそうで、あいつめ、屹度そこへ参っているに違いございませんから。――しかし、貴方様は? え? え? どなた様で」
諄く訊くのを、おかしく思いながら、常は、中途で受話器を切った。
男女のユダ
――その頃まだ横浜の子ども達は、親達の伝統的な異端視をうけて、聖書を手にしながら歩いてゆく牧師や、花屋の軒先に立っている黒いバテレン・マントを着た耶蘇の尼さんを見ると、こんな歌を唄って逃げた。
耶蘇!
ミソ!
てッか味噌ッ。
と。――だが異人さんはそんな時、人のいい笑い顔を何事かと振り向けているだけだった。かえって日本人である花屋の爺さんなどが、おとくいを怒らしてはという懸念から、
「こいつらッ、清正公様のお堂の蝋燭で洟でもかんで、ほッけのてえこでも叩いてけツかれ!」
と、花桶の水を往来へぶち撒いて叱った。