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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

夕風の鞭

「おい、こら、お前たちゃ、きのう船渠会社へ何しに行ったんじゃ。――新聞に出とる、新聞に」

と、新聞をたたいた。

夕風の鞭

「あらっ」

お槙と奈都子は、下品に笑い出した。

「ま、新聞に? ――じゃ、隠していてもムダだったわね、こう暴露しちまッては」

「ろくな所へ行きおらん、あんな、かんかん虫どもの集まッとる所へ行ったら、ペスト菌にとッつかれる。自体、何しに行ッたんじゃ」

「外国船のM号に」

「M号には、わしの店では、石炭を売っておらんが」

「ハムスンさんへ、お礼に伺ったんですわ」

「ハムスン? あのグランドホテルで、何かやった下手ッくそな、音楽家の」

「え。贈り物をいただきましたから――奈都子さんも、あたしも」

理平は、不快そうに、新聞をクシャクシャに持って、もう一度読み直しながら、

「それはええが、お槙は、わしがやった腕環を盗まれ損ねたというじゃないか。なぜあんな高価なものを持って歩く? すぐ、犯人が捕まったからよいけれど、もし宝石をバラバラにしてこかされたら、それ限りじゃないか。金庫へでもしまッとけ。ばか!」

「よく、ばかの出る朝ですこと」

「毛唐の客は、うるさいの、嫌いのと言って何だ、あんな西洋乞食のヴァイオリン弾きの尻などを追い廻して」