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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
黒眼鏡
「撲るとか、殺すとかいう場合には、いくらでも吾輩は先頭に立つが」
「なんにも報告がないの」
「きょう本牧へ行ったことだけは分っている」
「そんなら、私だって知ってるわよ。これからも、一週間位は、別荘の方にいるようだから、じゃその方も私がひきうけちまおう……」
それから彼女は、びろうどの小型なサックを帯の間から取り出して、その中からすばらしい金剛石の指環を、手品師のような指つきをして、つまみ上げた。
「諸君――こんなものが手にはいりましたのよ。こん晩は、そのご報告をいたしますわ」
黒眼鏡
「あっ、これかも知れねえぞ」
トム公は、直感的に、口をすべらして、黙っておいでと言うように、お光さんの眼に止められた。
「指環は、ごらんの通り、婦人の小型、金剛石は一・半カラット、白金だい、時価二千円ならば当店でも買えるという品物なんですよ、諸君」
と、お光さんは、ひとわたりそれを一同に見せびらかして、一枚のマントを五人ぐらいで着廻している愚連隊の飢えた眼をすくなからず羨望させた。
「それが、どうしたというのか、早く、説明に移ってもらいたいな」
と、神学生の今村が言った。
「この店で、二千円で買うと言うんなら、買ってもらって、少しお光さんの手からうるおして貰いてえもんだ」